古い話になってしまったが、書かずにはいられない出会いと、死ぬ気で作った 作品があった。
多分今までの、人生で一番死ぬ気で作った作品だった。
発端は、昨年11月16日の夕方。1通のメールが舞い込んできた。
「 Forja Artistica 様
はじめまして。 私 木本と申します。
貴方様のブログを見て メールしております。
貴方様のブログに行き着いた きっかけは “大谷機械のエアハンマー”=ハナ?です。」
という 出だしで 差出人には 「K製鋼 木本」 と記されていた
ふぅむと 斜め読みして、携帯をパタンと 閉じて 仕事に戻った。
「っておい!!」 心の中の もう一人の自分が ツッコミを入れる。
「戻って 戻って~!! 今のメール普通じゃないですよ~ K製鋼って おかしくないですか~??」
炉を止めて...再読。
う~ん 新手の迷惑メールではなさそう。 って事はやはり本物の <K製鋼>??
そのメールを要約すると
「エアーハンマーのハナを辿り あなたのダマスカス作品を みつけました。
ちょうど取引先へのお祝いの品を探していたので、制作依頼は可能ですか?」 という内容。
えっ!! K製鋼さんから まさかの依頼 (◎o◎)。 ビックリです!!!!!
その後何度かメールでやりとりし、鉄に対する知識の深さと
その上で、 正当な 評価をしてくれているのを感じた。 私が会いたかった方かもしれない☆
12月初旬ついに 木本さんが、 ハナとナナに 会いに来て下さった。
ハナを嬉しげに眺め、作りかけのダマスカス(※)に 興味津々。 そして<尽きない鉄談義を 2時間程する。
12月16日、電話で正式な制作依頼。
「自社製品を 彷彿させるものを ダマスカスで一つ お願いします。」
「是非、私共の工場を 見に行らして下さい。」 とのお言葉!!! いいんですか!?12月22日 <のぞみ>で富士山を素通りして~
工場は 企業秘密が た~くさんあって、ほとんど写真はNGだったけれど 強烈な記憶が私の中に刻まれている。巨大で <真っ赤な鉄塊> が、エアハンマーの親玉(エアーなのかな?油圧とかかな?)に 轟音と共に打たれ、潰される。
打たれる度に ムニュ~っと 変形する。不思議と 酸化膜は ほとんどなかった気がする。
鉄がムニュ~っと 変形すると共に <鉄塊> を支えている、 巨大な機械たちは ふわりと沈む。
なんと繊細な!! 沈む理由は ちょっとマニアックで 説明が長くなるので 割愛します。
あ~(T ^ T) なんと素晴らしい!!
機械の操作は オペレーター室で まるで UFOキャッチャーのように 行われているんだけど、
鉄の性質を 理解してなきゃ できるはずもない。
一発の コントロールが大きく響いてきそうだ。 相当な経験が 必要だろうな~。この写真は いただいた <日本鋳鍛鋼会> のパンフレットを撮影したもの。 この工場は K製鋼ではないけれど 参考まで。
唖然 ぞっこん...ポカーン。
ガラス越しではあったけれど、温度、音、空気、すべてを五感のすみずみに染み込ませた。
更に様々な 工程を 見せていただき。 私が作る 製品の 実物を見せていただく
製品は船のエンジン クランク軸の スローという部品、大小様々だけど 大きな物だと 一つが私の身長くらいあったかな。事務所入り口には その <スロー> の マスコットが居たよ。
帰る頃には、もう 腑抜けでした。 なんてったって、ものすごい技術力!!
そして全てが 巨大で 私の工房が <趣味> どころか、<超おままごと>にしか思えない。
「こんなすごいんだもん、ワタシに頼む 必要あるのかな?」 と沈むワタシ
「イヤイヤ! こんなすごい方々が 敢えて頼んで下さるんだから、 私にしかできない 事なのさ!!」と、もう一人の私。
さてさて 埼玉に戻って スケジュールとにらめっこする。
この時、いくつか 注文を抱えていた。
同時に 六本木での展示会用の ダマスカスを鍛え始めていた。 更に年末は バイトも繁忙期でハードシフトになる。
そんな折りに ずいぶん大きな鯛が 飛び込んできたもんだ。
かなり厳しい注文だが、すでに鍛えたダマスカスが いくつかあるから なんとかなるだろう。
年内は注文を仕上げ、 ひたすらダマスカス打ち、バイトを 無事故でやり過ごそう。
年が明けると 本格的に 格闘の日々が始まった。
スローオブジェ 2つ分のダマスカスを 一気に鍛えていく。ダマスカスは ミスしたら取り返しがつかないことになるから 保険として 2つ分作る事にしたのだ。
無事完成したら ダマスカスネタは 展示会分にすればいい。
バイトがない日は 工房に 寝袋と電気毛布を 持ち込んで泊まり、 ひたすら鍛えた。
バイトだって こんな時だからこそミスは 許されない。
でも あまりにも疲れて、仕事が途切れると 数秒で立ったまま、寝てしまう。気力だけだ。
ある、 雨から雪に変わりそうな 寒い夜、いつものように工房で 寝ていた。
目を閉じると、 目蓋の裏に 鉄の変化する様が 映し出された。
それはまさに ダマスカスを鍛える光景だ。
金色の固まりが グィッと変形し、 酸化膜が浮き上がり ハラリと落ちる。
これが 規則正しく繰り返され、 金色がだんだんオレンジに、 変化していく。
なぜだ? なぜこんな まざまざと 見えるのか??
そうか!! 雨垂れだ!!雨垂れが 規則正しく落ちる音を 頭がエアーハンマーの音に変換して目蓋に映し出してるんだ。
不思議な 経験だった。1月20日頃。 ようやく、 最後の鍛接(※)まで たどり着いた。 炉の状態は良かったが、体力が限界。
ここまでの苦労をぶち壊す訳にはいかない。 仕切り直して、 明日朝がんばろう。
しか~し!!!くっつかない
.....失敗した。
やはり 冬の朝から焚いた 炉では温度が 足りなかったのか?心を落ち着けて、 どうにかこうにか くっつけた。
しかし、私が必要としていたサイズには及びもつかない。
大丈夫! もう一つ分あるじゃないか!!
炉の温度が充分に 上げて挑み直す。
これが再びの失敗★★★ ...なぜだ?
普通サイズの鍛接での失敗なんてまずないのだが、今回は4キロ程のサイズだから少々、難易度が高いのだけど...
追い詰められる。 この時点で 納品日の10日前。
材料もなくなった。 燃料も残りわずか。
もはや気力すら 壊滅的。
この仕事、私にしかできないだろ 救いの手などあるわけもない。
追い詰められ、もはや食事も睡眠も 取れなかった。
木本さんに 状況報告と 妥協案を いくつか提案した。
木本さんは 労いの言葉と共に いくつかの妥協案を やんわり取り下げた。
そうか 必要なのは、妥協案ではなく決定打か。
バイト先でも事情を話すと 「ここは任せろ。 思う存分やって来い」 と仲間に励まされる。有休つぎ込み、一週間会社を休む。
木本さんとのやりとりで 解決策は浮かんでいた。
先日小さくなってしまった2つを利用して作ろう。 この経過を全てを 練り込んだひとつにしよう。
鍛接の失敗=不良品ではない。そもそも失敗という概念が難しい。結果的にくっついたのだから 鍛接は成功したといえる。
でも、今回予定した 完成サイズをクリアできなかったことが 失敗なのだ。
しかし、 割れが発生し、その割れに対処した(溶接は使わない)経過は、模様となって 刻まれ個性に変化する。
これが最後のチャンス!! 私は、この最後の勝負を 成功させる事 だけに集中した。
全てどうでも良かった。 全てをそこに 賭けてしまった。
ダマスカスに対するプライド、ココまで踏ん張って付いてきてくれた鉄への愛情、そして木本さんへの感謝 全てが入り混じってた。
3度目の正直は さすがに成功した☆☆☆
予定より 随分遅れてしまった。
ダマスカスの形状と模様を見極めながら、スローの形に海の波のゆらぎを落とし込む。
そんな時、 ラジオから流れてきた トーマス・エジソン の言葉
「私達の最大の弱点は、 諦めることにある。
成功するのに 最も確実な方法は、常にもう一回だけ 試してみることだ。」
そうだよ。その通りだね。
私の状況を心配して下さってた 木本さんから連絡がきた 「東京出張の帰りに伺おうと思います。」
車で駅まで お迎えに行く 私の傍らには、 できたての <スロー君> が ちょこんと居た。
苦しんだ分だけ かわいかったし。 荒波を乗り越えた 同志のように思えた。木本さんが、ニコニコの笑顔で <スロー君> を眺めているのを見て、木本さんと仕事ができたことが嬉しかった。
もちろん、なりふり構わずに やるという事は 周囲に多大な迷惑をかける事であり。
それは 自分自身にもダイレクトに 跳ね返ってくる。
でも 私はそうゆう人間なのだ。
本気で 何かをしようと決めたら、全てを失っても やる人間なんだ。
殊に ダマスカスを極める ためなら...。 周囲には 本当に申し訳ない。
無事スロー君は納品日に 間に合った。 スロー君の題名は
signal <海原へ>
すごく苦しんだけれど、鉄の声が前より ずっと 聞こえるようになった。
無名館プレオープンの際の木本さんと私。
私をみつけて、信じ任せてくれたこと、 ダマスカスを理解し惚れ込んでくれたことに感謝。
ハナが不調に陥った時、 「スロー君の時にハナを酷使してしまいましたから...」と心から心配してくださり、私を大谷機械さんに紹介して下さった。
(その時の記事は<ハナ&ナナオオカミ少年事件>の記事をご覧ください。)
「していただいたこと」、「感謝」や「K製鋼」は もちろん木本さんの一部なんだけど
優しさの中に スーッと筋が通っている のを感じる。 そのお人柄こそが 木本さんだと思う。
木本さんと私を 出会わせてくれたのは ハナなんだね~。 不思議だ。
(※) 鍛接、ダマスカス、簡単に説明すると、
≪鍛接≫ とは高温に加熱した、金属を重ねて叩く事によって一体化させる技術。
それを何度も何度も繰り返し独特の模様を作り出していく。
そうして作られた素材が ≪ダマスカス≫