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March.06 2016《日刀保たたら》その2 ー神か? 魔物か?ー
2016年2月6日 島根県奥出雲町にて
「日刀保たたら」操業を見学2日目。
3時半起床。4時過ぎに宿を出る。宿の主人とも会わぬままチェックアウト。
小雪の舞う真っ暗な道をレンタカーを走らせた。
3日3晩の操業を終え4日目の朝。
いよいよ鉧 (けらーたたらによってできた鉄塊) 出しだ。
他の見学者はグループだが 私は単独。心許なく待って居ると、昨日話をしたスタッフの方が声をかけてくださった。
「帽子とかあります? 鉧出しは埃で大変ですよ。良かったらこれ差しあげますよ。」とタオルを差し出してくれた。
あっそっか!! それでみんなビニール合羽着てるんだ。それなら私も持っています!!
ご忠告ありがとうございますと合羽を着てマスクもして、準備万端。高殿 (たかどの) へ。
背がちっさいから 一番前に行かないと見えなくなる。
最初に陣取った場所は人に押し出されてしまったけど、最前列は死守 (笑)
鉧は3日3晩かけて1時間に1センチ、ゆっくりゆっくりと成長してきたそうだ。
これから炉を壊していくのだ。
木呂管 (風の吹き込み口) をはずし、炉の下をつついていく。
さぁいよいよ、壁を壊そうという時「グラリ」と壁が内側に倒れてしまった。かなり珍しい状況だったようだ。
反対側は着実に壁が壊されていく。
「1、2の3!!」
手鉤のような道具を使って渾身の力を込めて少しずつ。
すでに鞴 (ふいご) は止まっているから燃え盛る火ではない。
それでも炉内は赤々とし、炉壁が壊されるごとに熱が強くなる。
炉壁全てが 外されると無事操業が終わった事を金屋子様に感謝し、お神酒が振る舞われ一旦解散となった。
ふと木原村下 (むらげ) と眼が合ったように感じた。
ずっと憧れだった たたら。
その踊る火と会話をしていた村下。
ありったけの勇気を出してただ言えたのは
「日新製鋼のMさんに紹介していただいた古屋です。素晴らしかったです。ありがとうございます。」
それ以上何も言えなかったし、言ってしまった瞬間に後悔した。
この方に自己紹介なんて、ただたたらの神様の視界に入りたいという利己的欲求でしかない。
なんともばつが悪かった。
でも木原さんは静かに「Mさんのね。日新製鋼のMさんね。」覚えていてくださったようだ。
もう、私には感動を伝える術がなかった。
たたらという偉大な知恵、技術、歴史、その操業を執り行い伝承する方...全ての重みに耐えかねた。
言葉など出てこない。
もし、操業を見る前だったら きっともう少し気の利いた事言えたはずなのに (>_<) 完全に圧倒されていた。
次から次へと重鎮らしき人が 木原村下に挨拶に来る。私はモジモジと後ずさった。
「そもそもさ。私にはこの方に対する労いの言葉なんて持ち合わせてないのよ。
手放しで感動だけを伝えるには 鉄の苦労を知り過ぎているし、わかったような事を言える程の知識は無いんだもん。」
結局「まっいっか。」と開き直って再び 高殿の独特な雰囲気を満喫した。
高殿には残された火は舞い疲れ、静かな眠りにつこうとしているかのようだ。 《待ち時間に。高殿から立ち上る煙に朝日があたっていた》
2時間後、再び高殿に戻った。いよいよ取り出しだ。
赤々としていた 鉧は色を失い静かに灰色になっている。
巨大な鉧の下手側が少し持ち上げられた。
鉧の下の木炭はまだ冷めずに金色だった。ほの暗い高殿に金色の光がこぼれた。
それはまるで地球の蓋を開けて マグマを覗いたかのようだった。鉧から裏側に付いていたであろう木炭の粉 (かな?) が金色の雨のように降る。
美しい...。
極太チェーンをかけ、そのチェーンは隣の建て屋から伸びたワイヤーに繋がれ 合図と共に引かれ始める。
重い身体を持ち上げ丸太をコロにしてゾロリ、ゾロリと引かれていく。
鯨が海から陸に上がろうとしているように。
丸太の焦げる臭いが立ち込める中、下面が真っ赤で熱気と緊張感を帯びたその物体は例えようの無い存在感だった。
神か? 魔物か? 巨神兵か?
その姿も 情景も 尋常ではなかった。
じりじりと炉から抜け出る鉧と共に自分の魂も持っていかれるような錯覚に陥った。
これが火と人の3日3晩の結晶なんだ!!
目が点&マスクの下で お口ポッカ〜ン状態だった (・0・)
地球の蓋のような、神の化身のような、
魔物のような、
けらは薄暗い高殿を出て明るい日差しにさらされた。
まだ所々が赤い。
鉧は綺麗な鉄の塊ではない。砂鉄が木炭の間を溶け下って固まった物だから、雷おこしのようにツブツブしている。これから充分に冷まされて、数ヶ月かけて粉砕されていく。
全てが玉鋼なわけではない。場所によって成分は異なるので、それぞれに分けられる。
玉鋼だけでも8つの等級がある。
玉鋼以外の部分は鍛冶用、鋳物用に分けられる。
単純に日本刀となる玉鋼を作ると考えたら 本当に効率悪いよなぁと 考えていたら、
「たたらで作られる鉄はこうして、部位毎に日本刀にも農具にも姿を変えました。それがたたらが農民にの協力を得られた要因でしょうね。」とKさんに説明していただいて納得。
もっともっとたくさんお話し聞きたかったけれど、ご迷惑だからおいとましなきゃ。
最後に工場敷地内の金屋子様に別れを告げる。
「たたら場の皆様が今後とも無事でありますように。そして私を鉄の世界の端くれに置いて下さい。
また会いに来ます。」
金屋子様はな〜んにも無反応 (当たり前だ)
沈黙は承認の記しと昔から言うしねヾ(*´∀`*)ノ゛
なお、見学中は撮影不可でした。
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